| 回答の結果は企業サイド、従業員サイドの要因とも、概ね一部の項目に集中した(図表1参照)。 具体的には、企業サイドが「3.相対的に低いプランの管理・運営コスト」、「4.資産運用リスクの従業員への転嫁」、「6.企業会計上の年金債務・費用計上の回避」の三要因、従業員サイドが「3.ポータビリティの確保」、「4.より有利な課税優遇措置」、「5.株式市場等の良好なパフォーマンス」の三要因となっている。

企業サイドの「3.相対的に低いプランの管理・運営コスト」については、半数以上が最重要要因として挙げている。 実感としてプラン管理・運営を行う繁雑さから開放された、あるいは、企業が支払う資産運用コスト(運用報酬)の絶対水準が低いなどの理由で選択されたと捉えられよう。 競争激化による低コスト且つ充実した包括サービスの提供や、運用報酬(マネージメント・フィー)の事実上の従業員への転嫁など、ミューチュアル・ファンドに代表されるメリットが深く浸透している事実が窺い知れる。 前提としての低コストで魅力ある運用商品やサービスの提供の重要性を改めて指摘せざるをえない。 なお、この要因が選択された結果には、若干注意が必要な面がある。 というのも、前に指摘したようにプランの管理・運営コストは大規模プランでは確定給付型プランの方が低いケースが少なくないという調査結果があるからだ。 絶対的なプラン数が多い小規模プランにおける事実をイメージで捉えている面が否定できないのである。 また、掛金拠出分まで含めたトータルのコストは、運用結果が良好であれば確定給付型プランの方が低くすむ可能性が高いことは忘れてはならない。 実際、米国の確定給付型プランでは、良好な株式市場の影響もあって掛金拠出を行わなくても済む所謂「コントリビューション・ホリデーズ」の状況にあるところが多い。
次いで回答が多かったのが、「4.資産運用リスクの従業員への転嫁」である。 これは、確定拠出型プラン導入の代表的なメリットとして指摘されることが多いが、そうした事実を裏付けた格好だ。 資産運用環境が比較的良好であった米国においてさえも、将来的な資産運用リスクには格別の注意が払われている様が窺え興味深い。 一方、「6.企業会計上の年金債務・費用計上の回避」が三機関から指摘された点は注目に値する。 米国では、良好な運用環境等を反映して積立超過のプランが多く、企業会計上の年金債務・費用は基本的に企業にとってプラスに働くところが多い模様である(図表2参照)。 にもかかわらず、これが最大要因として指摘された背景としては、企業業績等の変動リスクの回避と深い関係があると指摘せざるを得ない。 先の資産運用リスクの従業員の転嫁についても、基本的に後発の掛金負担の変動回避という考えがあると思われ、企業の業績や財政状態の計画的な推移を選好する様が明らかといえまいか。

以上に対して、従業員サイドでは「3.ポータビリティの確保」との回答が最も多かった。 米国では80年代の重厚長大産業を中心とする製造業→サービス業というシフト以降、雇用の流動性が比較的高い状態が続いている。 401(k)プランはこうした社会経済状況に上手くマッチしている事実を裏付けているといえる。 また、401(k)プランなど確定拠出型企業年金の他に、米国では個人年金としてIRA(個人退職勘定)が普及しており、これを401(k)プラン資産等の転職時の移管先として活用することで、事実上完全なポータビリティが確保されている。 当該要因が最も多く選択された事実からは、401(k)プランの発達にはIRAの存在が極めて重要な意味を持つと改めて認識することができよう。
次いで「4.より有利な課税優遇措置(特に高額所得者)」、「5.株式市場等の良好なパフォーマンス」が同数で続いている。 前者は税制を考える上での重要な論点として指摘できる。 つまり、税制上の優遇措置は基本的に退職後所得保障としての必要性を背景に設けられるのであるが、所得保障制度として自助努力の度合いをどの程度に位置付けるか、あるいは個人貯蓄と所得税の関係について如何なるバランスを選択するかという問題に行き着く。 例えば、退職後所得保障としての個人勘定に対する税制や課税優遇措置における所得制限を如何に考えるかという問題が生ずることとなる。 一方、後者については、基本的に企業業績をはじめとした運用環境と密接な関係にあり、制度的な対応を考える上では直接的な関連性は薄い。 もしこの項目が最大の要因であるとすれば、株式市場など外部環境が変化しないことには年金分野での制度的な対応を施してもその意味はあまりないことになる。
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